Diary
沖縄滞在日記

伊江島滞在制作 vol.2 7/26-7/29

記:水野立子

7/26 終わらないリハーサルday 

台風で1日待ちぼうけをした対岸の備瀬から、いよいよ公演に向けてラスト滞在制作1週間を過ごす伊江島へ戻ってきた。ShinBowさんは、30日から合流。ノーラとダンサー、ボイスの真美さんは、13時半のフェリーで伊江島に着いてすぐB&Gで稽古開始。所長の万寿さんに多大なる協力をいただき、稽古場として使用させていただいている。その後、改善センターのホールで再び稽古。これで終わりかと思いきや、野外の会場での稽古、と終わりがない。真美さんが入ってから実際の会場で合わせるのは初めてだし、公演まであと5日となると、移動日でも休んでいる暇はない。ノーラのアフリカンダンスの特有の体の使い方を習得するのもかなり難しい上、今回は男性ダンサー2名もでずっぱりでノーラとほぼ同じ振りを踊る。此処から先は、自分で踊りの意味をつくっていくしかない。今日は気合を入れたリハーサルだった。

水野、アキ、桑折の制作スタッフチームは、健吾さんと地元の音響を一手に引き受けている玉城さんとで最終の舞台の打ち合わせを行った。改善センターに着くと、健吾さんが「奇跡が起きたー!」と話してくれたのは、ウシャパドゥモー跡の象徴となるアコウの木の葉が、私たちが備瀬に行くときは、ほぼ丸坊主の木になっていたのに、台風が去り昨日1日で、みるみるうちに葉が青々と茂ってきたそうだ。本当にこの1日で再生したという。公演に間に合わせるかのような見事なタイミング、「来てますねー」と健吾さん。

ちなみにこれが、備瀬に行く前、7/20頃のアコウの木。確かに葉が1枚もない。

昨日から生えてきた新芽が青々しい。

伊江島の名産のひとつに菊がある。夜の11時から明け方まで電気料金が安い時間帯に電燈で農場を照らして、菊の育成を促す栽培方法「電照菊」と言われてるものが有名だ。昨日までいた対岸の備瀬から夜になるとこの電照菊の灯りがきれいに見えたっけ。ノーラの希望で、この電照菊の照明を舞台上に置き、舞台上に撒く予定の珊瑚を照らしたいということになった。ピンクと黄色の電燈を農家の方の協力を得、健吾さんが借りてきてくれた。伊江島の普段の光景が舞台に乗るとどうなるのだろう。


(伊江島の闇に光る電照菊の明かり 撮影:山城知佳子)

ノーラの舞台上の演出である珊瑚を撒くということが、どこまでのエリアを埋めようとしているのか?現実的にどこまで珊瑚を拾うことができるのだろうか?これが問題。珊瑚を舞台上に敷くという案が出たのは、ノーラが沖縄での最初の滞在制作の場であった宮古島に入ってまだ2日目のこと。既にそのアイデアが浮かんでいたことは、前出に記したとおり。「祈り」というテーマとも密接な繋がりを持つ珊瑚。神事の際、珊瑚を撒く習わしがあったとわかったときのゾクッとした感覚は忘れられない。

伊江島では神事の際、祈りの時に撒くための珊瑚を集めたのが、阿良の浜だったそうだ。神事に詳しい健吾さんから、まずはその起点となる阿良御嶽に公演の成功の祈願に行き、阿良の浜の珊瑚を7つだけお借りしに行こう、と提案があった。早速、制作班と映像班が出かけた。阿良御嶽の拝み場からは、城山が一直線に見える。まるで神様の通り道のようになっていて、浜から城山まで結ばれている。ここは、伊江島から旅発つ人の安全と無事を、そして、何事もなく帰って来れたことへの感謝を祈る場として、島の重要な場所だったようだ。30年前まで続いていた神事では、此処からノロさんが馬に乗り、稚児を抱えて坂道を勇壮に駆け上がったと言われている。そうか此処からだったのか。とんでもなく歴史的な阿良御嶽に、公演の無事を祈る。

目の前は阿良の浜。今では珊瑚はそれほど多くはなく貴重なものだ。一人1つづつ7つの珊瑚を探した。私はOKサインのようにも見える愛嬌のある珊瑚を見つけた。公演はOKだよ!と神様から合図をもらったようで嬉しい。あと5日で公演。

7/27  どうすりゃいいのさ珊瑚!

今日は予想もつかないような長い1日となる。
舞台設営が開始した。
これまで主に通訳として活躍してくれていたアキ君。美術家を目指す大学院生だ。アキくんの作品で、赤い毛糸を何本もまっすぐに街中や工場跡、学校の廊下など、日常の中に張る糸のシリーズがある。その写真をみて、ノーラはアキ君の美術を何らかの形で舞台に取り込もうと、初期のころから考えていたようだ。

このウシャパドゥモー跡となるヒストリカルな場所。会場にある象徴的な2対の木。会場の後ろにある日常的な駐車場。円形となる客席の配置。これらの会場を非日常の場として、ダンス公演の会場として設えていくために、アキ君の美術家としての腕の見せ所ということになる。伊江島のあちこちの畑で見かける白いネット。ノーラは会場まで歩いてくる時に、伊江島の景色を見て、おもしろいな、と思うものを舞台に取り入れるのが得意。舞台の背景になる駐車場と舞台をこのネットを使い半透明に遮断する演出をアキ君に託した。改善センターにある重石を借りて工夫して設置する。アキ君、大忙し。  

さて、難題発生。昨日集めてきた段ボール1杯分の珊瑚をアクティングエリアとなる芝生の上に健吾さんが撒いてみたそうだ。それを片づけるのに3時間はかかったそうだ。つまり、珊瑚が細かすぎて芝生の中に入ってしまい箒では掃き出せない。手でひとづつ拾うしかなく、これは困った。ということで、珊瑚をフルイにかけて大きなものに選別する必要があるということになった。  問題2。「実際に珊瑚の上で踊る稽古をしたいから、なるべく早く敷きつめてね。」とノーラに言われているかが、新芽が出たてのアコウの木は、白い小さな花を落とす。1日たてばそれば乾いて玉ねぎのような茶色が白い珊瑚の隙間に入ってしまい、きれいじゃなくなるのでは、と。うーん。。。と唸っていたところ、映像の砂川さんが、映画の助監督の経験を活かし、”シートをかけておいて、そこに溜まった茶色を後で払えばいいじゃないか”、と。そうかー!ナイスアイディア。

(こんな感じ茶色が入ってしまう)
とまあ、こんな段階はまだまだだった。 桑折君と私は、浜に行き珊瑚の段ボールをまずは1つフルイにかけに行った。しかし、夕暮れ前の西陽の強さといったらない。ハアハア苦しい、暑い。たった段ボール1杯の珊瑚をフルイにかけるだけで、かかる時間と疲労感といったらない。これって本当に舞台全面に撒くほどできるだろうか。。。。 とりあえず帰ってから芝生の上に撒いてはみたものの。。。。。全く何もならないほどの量だ。例えて言うなら、バケツ一杯の中に一粒ほど。。。。これってヤバイかも。先が見えない。 電照菊のテストと照明をみるため開演時間、19時半に合わせてリハーサルを行った。限られている電気の容量と、限られている照明機材を有効に使用して、効果的な演出を狙う。電照菊の電燈はきれいに舞台に映える。

それよりも、最大の問題ー緑の芝生ではなく白い珊瑚を敷き詰める量をどう集めるか、且つ、撤去をどうするか。そこは解決できていない。通し稽古が終わりダンサーが帰ってから、スタッフ間で相談を始めた。 七つ星のメンバーの知念さんが「ここに全面に珊瑚を敷くなら、軽トラの後ろに20回分、2トン車なら2回、人力じゃ無理。重機のパワーシャベルとフルイにかける機材、男が5人でやって1日仕事。」という予想を超えた想定が来た。ガーーン。 そうかー段ボール何杯とか、そういう規模じゃなかったかー。。。

しかし、浜に重機を入れることはご法度。海や浜の自然は国のもの。もし浜に重機をいれて大々的に集めるなら、国に申請し県に申請し村に申請し、許可を得られるのは何か月先だろう。うーん、どーすればよかばいーー。つまりは、珊瑚を購入するしかないということに。

それは想像するだに、高そうである。しかもこの面積。そこに知念さんが、「珊瑚の砂」というのがあると。しかも同級生がその会社をやっていてサービスが効くかも、という光のみえるお話があり、なんとか算段をつけてくれた。珊瑚そのものではなくとも、珊瑚の砂。沖縄の浜は白いサラサラの砂。あれは、珊瑚が何年もかかって砕けて砂になった姿だったのだ。しかもここは沖縄。沖縄中の珊瑚の砂を取り扱っている会社があった。ラッキーだ。これがもし、本土だったら。。。配送費だけで無理な金額になったであろう。やはり昨日のOKマークの珊瑚が味方してくれたのかも。あとは手作業で浜に会社が廃棄した珊瑚をいただくことは、法的に問題でないようだ。結論。珊瑚の砂を買い+手作業で廃棄珊瑚を集める。気が付けば12時近く。腹も減ったし明日の段取りもあるし、しかし、光が見えたのは嬉しい。知念さん、あざーす!!!

7/28 珊瑚砂+珊瑚 搬入! 昨夜、ホテルに帰ってから事の成り行きをノーラにメールする下書きをして、それからアキ君が英訳してくれたのが夜中3時すぎ。朝起きるとノーラから返事がきていた。これで行こうということに!方法がクリアーになってくるとあとは、実現あるのみ。 早速午後には、1回目の珊瑚の砂が搬入される段取りになった。単位は20平米分。2トントラックで来るらしい。この20平米分の砂を広げるとどれくらいの面積になるのか。。。追加するのかしないのか、素人考えでは即答できずまあ、やってみることに。 日差しが厳しい酷暑の午後、トラック到着ー。照りの影なし。何年かぶりの肉体労働開始。アキ、桑折、知念さん、そして私。 まずは2トン車から舞台エリアに砂を落とす。

次にネコ車に砂を入れ、舞台上に投げこんでいく。水分を含んでいるので重い。珊瑚の砂というほど白く見えない。茶色がかっているのはまだ水分を含んでいるからだそうだ。これが太陽の光で水分がなくなると、珊瑚のように白い砂になっていくらしい。

次、私の作業なので写真がないが、湿り気のある砂を伸ばしていく作業。腰が腰が。。。となりつつやりましたよ。おぼつかなさを察してか、映像班の山城さん、砂川さんも加勢してくれた!ありがたや! 砂が移動できる重さになったときシートごと引っ張って移動させていく。

昨年、アフリカのダガール近郊のJant-Biというカンパニーの拠点を訪れた。そこで見たのは砂の劇場だった。砂がかなり深く敷いてあり、踊るのは相当な体力が必要そうだった。あまり厚く砂を敷くと足が重くなる。なので、今回は、芝生の緑が見えない程度に砂を広げていく。 20平米の砂を広げると、まだ2/3くらいかな。上手のほうまで足りていない感じ。

なんだか暑すぎてよくわからない感じになったところで昼休憩。沖縄の夏をとことん浴びた。備瀬で軽い熱中病になったので、対策というのを沖縄の人に聞いてみた。すると、わかったこと。「何もしてないんですよー」と言いつつも、やはり習慣的にやっていることがある。水だけ飲んでいてもダメだということ。ミネラル、塩、梅干しなど、いまはそれ専門のアメなどをともかく食べている。そしてやはりスポーツ飲料強し。そうか水ばっかり飲んでもダメだった。そのはずなのは、体からどんどん汗が出てそれはそうとう塩辛い汗だからね。

ということで休憩後、次は、健吾さんの出番。男衆を集めてくれて破棄珊瑚集め作戦。健吾さん曰く、「15分が限界。かなり厳しい」とのこと。来たー!男5名で軽トラ一杯のフルイにかけてくれた大き目の珊瑚!素晴らしい。感涙もの。

珊瑚の砂の上にどう珊瑚を撒くのか?ノーラが舞台の配置を決める。月の淵を形どるように、白い砂の淵の輪郭をなぞるように半円に珊瑚を置くことになった。珊瑚と砂が混ざらないし、砂の上だと裸足で踊れるし、演出的にも利便的にもいい解決がついた。健吾さんももう1杯分、珊瑚を集めにいくのは厳しいと言っていたからホッ。ノーラも珊瑚が簡単にとれないものであることは、理解している。自然がいくらでもある時代とは違い、自然の資源は自由にとることはできない。ノーラも一緒に珊瑚を竹ぼうきで広げていく。筋力があるからか、さすがに手馴れている。

いろいろ紆余曲折を経て、舞台は珊瑚の月のようなイメージになったようだ。いい空間になってきた。 明日、緑が少しだけ見えている部分に、砂を補充する。今日、20平米だったから明日はその半分にしよう。それにしても、夕陽が落ちたころの7時半頃は、備瀬でもそうだったけど、本土ではみれないような空の色には圧倒される。青とも紺とも言い難い、明るくて暗い夜の始まりの空の色。夏の逢魔ヶ時というのだろうか。伊江島の電照菊のライトが白の砂を浮き立たせている。 ダンサーたちは、今日の昼の稽古は自主稽古にしたようだ。昼は本当に体を動かすどころじゃないくらい暑い。本来なら昼寝するしかない気温だ。 ここからは、ダンサーそれぞれが自分のダンスをつくりあげていってほしい。


(上手の地面が見えている部分に明日、珊瑚砂を入れて完成する)

7/29 舞台セット完成!
舞台セットの完成がようやく見えてきた。今日は残りの部分の2回目の砂入れ。昨日の半分とはいえ普段慣れない私にとっては、やっぱり重労働。今日も沖縄の太陽は元気だ。サングラスをしないと目が日焼けして痛くなる。

ドーン!! ようやく舞台完了ーーー!

昨夜、ほぼ徹夜して赤い毛糸の舞台美術の仕込を終えたアキ君。白ネットが照明の影を出し、赤い糸がアコウの緑の葉に映える。

開演時間の様子。時間の経過によって変化が早い。ピンクと黄色の電照菊。明日は本番どおりのリハーサルができるぞ。ShinBowさんも来る!

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